蜜林檎 *Ⅰ*
そして、車の窓から
夕日が沈んでいく風景を
見つめながら杏は話を続けた。
  
「私、彼氏は
 作るつもりないので」

「どうして?」

辺りは、ゆっくりと
薄暗くなっていく。

車内を、沈黙が包む。

「私の話よりも、イツキ
 ・・・イツキさんは
 どうして
 ここにいるんですか?」

煙草の灰を灰皿に
落としながら、樹は言う。
  
「呼び捨てで構わないよ
 その方が慣れてるから」

「いえ、ご本人を前にして
 呼び捨ては、さすがに
 できないです・・」

「本人前じゃなきゃ
 いいんだ・・・」

律儀な杏に、樹は微笑む。
  
「さっきの答えだけど
 俺、昔、この辺りに
 住んでいたんだよ
 まだ、ぜんぜん売れない頃
 メンバーと一緒にね」
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