声恋 〜せいれん〜
「この靴下かわいくない?」
「あ、このお財布きれいですね」
「これいいんじゃない? ほらこのマグカップ」
う~、ついつい自分たちのものばっかり見ちゃう。
「だいいち、男の子のよろこぶものってこういう『女の子ゾーン』にはなかなか売ってないよね」
「そんなことないよ、鷹井はあれでけっこうオシャレだから女ものも似合うと思うし。だいたい、彼氏の好きな色とかキャラとか、普段からそういうもの見て気づいとかないとこういう時に苦労すんだよな」
エリカは長いつきあいの彼氏がいるからちゃんとそういうとこ見てるし、しっかりしてる。わたしだってエリカみたいなしっかりものの彼女が欲しいもん。
「う~、だって優一くんといるときはゲームとアニメと声の演技の話しかしないからなぁ、ていうか“彼氏じゃない”しぃ~」
この言葉を言うといつもわたしは同じ笑みを浮かべてしまう。反応するパターンを同じにしてしまえば、変にうろたえることがないってことがわかっているから。
誰に対して?
エリカやありさちゃんに対して? それとも蓮也さんに?
ううん。
自分にだ。
それも、わかってる。
「陽菜ちゃんには、蓮也さんがいますから」
ありさちゃんが、わたしの沈みそうになった心を持ち上げる。
そう、たとえ仲がよくなっても、キスをしても、わたしの中では蓮也さんは遠い存在で…だから不安で、そうやって声に出してもらえるのが勇気になるはずなのに…。
…なのに、遠い。
そうやって気づかわれるたびに、遠くなる。
「蓮也ねぇ」
エリカはわたしが蓮也さんとのことを話しても、とくに関心があるわけでもないし、何も言わない。
彼女はきっと、わたしと優一くんがつきあってほしいのだ。
心配なのだ。人気のイケメン声優にわたしが本気になることに。
その気持ち、うれしいはずなのに。
それはわたしの心に、トゲとしてささる。