声恋 〜せいれん〜




遊園地につくまで三時間…。




園内は人、人、人…。




何かに乗るにも、食べるのも、行列で待つ…待つ…待つ。




あばばば…すごく寒いし…。




なんか…優一くんにムリ言っちゃって、悪いことしたかな…?




そう思ってたのは、最初だけだった。




だって今夜の優一くん、すごくやさしかった。




わたしのあげたマフラーをまいて、「いや、全然。寒くない」って言ってくれた。鼻の頭、ちょっとだけ赤くしながら。




ごめんね。彼女でもないのに…許してね。




でも…やっぱりうれしい。




家ですごしていたら、すごくさびしかったと思う。なんどもなんども、蓮也さんのことを思い出して泣きそうになったと思うし(そ ういいながら思い出しているけど)。ひょとしたら恨んでいたかもしれない。でもこうして優一くんといっしょにすごせたから、そうならずにすんだ。




ありがとう…優一くん。




「ねぇねぇ、観覧車のろうか」



「あ、うん。…ぼく、女の子と二人で乗ったことない。はじめてだ」



「それって、なんの告白?」



「あ、いや、ただ、なんとなく」




「ふっふぅ~ん、おぼえていますよぉ~。むかし、話したよね。観覧車で男は女の子のどこを見るかって。足と、横顔と、耳元と、う・な・じ、ですよねぇ~」




そういうわたしの今日のファッションは、白のコートで黒のタイツにミドル丈のぽんぽんがついたキャメル色のブーツだ。




「ゴメンねぇ~、足、見えなくて。防寒対策バッチリで」




「あ、あれは男の一般論だよ…べつにぼくは…」




「…べつに、ぼくは、なに? かなぁ~」




ちょっといじわるして、優一くんの顔を、のぞき込む。




そしたら黙って、スタスタ歩き出しちゃった。




もぉ~、子どもなんだからぁ~。恥ずかしがっちゃって。マテマテ!



< 145 / 286 >

この作品をシェア

pagetop