声恋 〜せいれん〜
「え? なんか言った?」
「え? いや、なにも? サンタさんじゃないの?」
優一くんが笑う。
「もーっ、そうやってまた、バカにするー」
「ハイ、じゃあこれ、サンタさんから」
そういって優一くんが取り出した、かわいい包み。
「…え?」
思わず差し出した両手に、ふわりとした重みが加わる。
「…あ、ありがとう…」
一瞬わたしの脳裏に、バッグにしまったあるプレゼントを思い出す。
「…あ、開けてもいいかな?」
「どうぞ」
「…かわいい…!」
ほどけたリボンのなかから、ウサギのシルエットが描かれた腕時計がでてきた。12時、3時と文字盤がハート、スペード、ダイヤ、ク ローバーになってる。
「すごーい、すごくカワイイ! 気に入りました!」
「そう? よかった。桜木さんウサギ好きだしね」
「ありがとう…」
そうつぶやくだけで、限界だった。
わたしは瞳からこぼれる涙を、おさえられなかった。
「ごめんね…優一くん…」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、頭の中はまたあのプレゼントを思い出す。そして、自分の浅はかさを呪った。
(目の前の人とちゃんと向き合ってないのは…わたしのほうだ)
わたしのバッグの中で眠っているのは、蓮也さんへのクリスマスプレゼント。もしかしたら彼から“予定が変わった、今から会おう”ってメールが来るんじゃないか、そう思って用意しておいたものだ。
うれし泣きをとおりこしたわたしの態度に、おかしいと思ったのだろう。優一くんが心配そうな顔でこちらをのぞきこむ。
困るよね…こんな姿みせられて。
でも、そのやさしさの中に、飛び込むわけにはいかない。
そうできたら…どんなにうれしいか。
わたしは…わたしは…。
嗚咽がとまらずに、わたしはただひたすら涙をながした。