声恋 〜せいれん〜
軽快なジャズの音楽が流れてきて、ありさちゃんの声が校内に流れる。
「4月22日、お昼の放送です」
水曜日のお昼の放送はありさちゃんが当番だから、この日ばかりは優一くんと別れて教室でお弁当を食べる。
エリカと二人だけだからちょっぴりさびしいけど、ありさちゃんの声がまっすぐで、気持ちがいい。
「媚びてなくていいよな、ありさのしゃべり声って。まじめすぎてつまんない部長やタレントぶってるやつのと比べると、すごく普通なんだけどさ」
「その普通にやるってのがむずかしいんじゃないかなぁ。ありさちゃんいつも言うよね。『そんなことないです、わたしは普通です』って」
「父親があんだけ有名なキャスターなのにね」
「ありさちゃんはすごーくていねいにしゃべるよね。そこがなんか、かわいい」
「あんがいそれが一番むずかしいのかもしれないな。みんな自分が“個性的だ”って思われたいみたいだし」
「わたしはありさちゃん、そこが個性的だと思うよ」
「完璧に“普通”な人間がいたとしたら、そいつこそ一番の変わりもんだよ…。ところで、優一くんとはどこまでいったのかな?」
「え!?」