声恋 〜せいれん〜




「仲西みつ江に説教したら受かったぁ?!」




さわがしい食堂にひびくすずのかん高い声。土用の丑の日、限定うなぎ定食を食べていた手がとまる。




「ちょっ、すず! シーッ! …んー、説教っていうか、ただキレただけなんだけど…そういう風にしか見えなかったから…それになにがなんでも…ミリシュちゃんと共演したかったし…そのシーンを何度も頭の中で想像してたら…本人の…ミリシュちゃんの声が聞こえてきたっていうか…がまんできなかったの」




ミリシュちゃんってみつ江さんがやっている主役の女の子。ブーヴァン・シーっていう吸血鬼で、一緒になって踊った男たちの血を吸い取るっていう伝承からきたモンスターなんだけど、この人形劇ではかわいい引っ込み思案の女の子として描かれている。




「陽菜…あんたもたいした度胸だねぇ…春にであったころとは大違いだぜ…」




「へへ、すずと、千明さんのおかげだよ」




そういって笑うと、すずも不敵な笑みを浮かべる。




「ああ、あいつも最近本気で演技にとり組むようになってきたからな。あたしたちのおかげ? 負けたくないんだろうね」




うん…夢中でがんばっていると、イヤなこととか、つらい昔の記憶も乗り越えられる。前に進める。




そう信じて、がんばってきたんだ。




「でもさあ、あれって推薦がないと受けれないって話だったよね。あんた、そんな協力なコネ、どこでもらったのよ。な~んかイケナイことでもしたの?」




「すっ、するわけないでしょ?! なにいってんの、もう!」




…でも、それはわたしもおかしいと思ってたんだよね…一体誰が推薦してくれたんだろ? マネージャーの米本さんも教えてくれないし…?




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