声恋 〜せいれん〜
「優一くん」
「なんだよ、もう、遅いよ」
一瞬、本当に呼ばれた気がした。
でもヘッドフォンをはずしても、聞こえてくるのは雨の音だけだった。
あたりには誰もいない。
幻聴か…。
よっぽど待ち遠しいのかな…こんなの、バレたらハズカシいぞ。
でも…たしかに、呼ばれた気がしたんだよな…なんか上の方から…。
ふと傘ごしに、空を見上げる。
傘にたくさんの桜の花びらがついていた。
そしてそれはまだ、つぎからつぎへと舞いおりてきていた。
ふりやまない雨とともに、桜が泣いているように見えた。