声恋 〜せいれん〜




場内の観客が蓮也の声にあわせていっしょになって叫ぶ。




ギターの叫びにあわせて身体をふるわせる。




夜の向こうにあるはずの、見えない明日に向かって。




ひくい、ひくい、魂の底からのうなり声。




だれもが同じ、悲しみや不安を背負っている。




蓮也が、ステージ上をはげしく動き回る。




ジャンプし、指を突き出し、さけび、にらみ、全員の叫びを己の全身に浴びる。




ぼくはその、ステージ上をあばれまわる蓮也を見て、彼の苦しみを思わずにはいられなかった。




ぼくはもう、自分ではじゅうぶん苦しんだと思う。その苦しみを小さなかけらとして、ずっと持ち続ける選択をした。




だが彼の選択は違う。立場も違う。同じようにしろ、とはいえない。




彼には彼の苦しみ方があり、とむらい方がある。




ぼくと塔子さんには、彼に刻まれた悲しみをただ受けとめることしかできなかった。



< 281 / 286 >

この作品をシェア

pagetop