声恋 〜せいれん〜
場内の観客が蓮也の声にあわせていっしょになって叫ぶ。
ギターの叫びにあわせて身体をふるわせる。
夜の向こうにあるはずの、見えない明日に向かって。
ひくい、ひくい、魂の底からのうなり声。
だれもが同じ、悲しみや不安を背負っている。
蓮也が、ステージ上をはげしく動き回る。
ジャンプし、指を突き出し、さけび、にらみ、全員の叫びを己の全身に浴びる。
ぼくはその、ステージ上をあばれまわる蓮也を見て、彼の苦しみを思わずにはいられなかった。
ぼくはもう、自分ではじゅうぶん苦しんだと思う。その苦しみを小さなかけらとして、ずっと持ち続ける選択をした。
だが彼の選択は違う。立場も違う。同じようにしろ、とはいえない。
彼には彼の苦しみ方があり、とむらい方がある。
ぼくと塔子さんには、彼に刻まれた悲しみをただ受けとめることしかできなかった。