声恋 〜せいれん〜




帰りの機内。




窓側にすわった蓮也さんはヘッドフォンをつけてずっと外の景色を見ている。




そしてわたしはずっと、そのさびしげな後ろ姿と、その向こうに見える街の灯を眺めていた。




いや、最初は、すごくテンションあがって、舞いあがってた、わたし。




あー、やっと蓮也さんも別れたがってた人ときちんとお話もつけてすっきりしただろうから、これで帰りの機内はふたりだけの甘~い時間をすごせる!
やった! って思ってた。




でも、全然なんにもしゃべってくれない。窓に映り込んだ蓮也さんの瞳が、なんだか悲しそうに見えた。




最初はわたしに窓側の席をゆずってくれたんだけど、ずっと黙ってこっちの外の景色見てるから…あの蓮也さんのきれいなまなざしがわたしの方に注がれちゃってるんだと思うと…もう緊張して何度もおトイレに立っちゃって、それで「あの、わたし、蓮也さんに見つめられるとキンチョウしちゃうんで…席、代わってください!」ってお願いしちゃった。




そのとき蓮也さん、ふっと笑ってかわってくれたんだけど…なんだろう…その笑顔、胸がいたい。




のこのこ北海道までついてったくせに、全然蓮也さんの役に立てなくて…すごく悲しい。ああ…なにか、蓮也さんの役に立ちたい。ファンとして一緒にいられるだけで幸せ、なんて思ってたけど…そんなんじゃファン失格だよ。彼のために、彼が喜んでくれるようなことをしてあげたい。




あなたの、力になりたいんです…。




そんなふうにぐるぐる頭ん中で考えてたら、急に蓮也さんがヘッドフォンをはずしてこっち見るから、ドキーってした。心臓、止まるかと思った…。




「…あぁ、今日は、すまない。こんな勝手に、こんな時間までつれまわして。女との別れ話にこんな女の子を連れまわすなんて…ふっ、大人失格だな」




そういった彼の顔が、すごくさびしそうで…だけど、すごくきれいで…不謹慎だったけど、わたし一瞬見とれちゃった。




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