声恋 〜せいれん〜
「そんなこと…ないです! たしかにいっしょに来いって言われたけど、蓮也さんのそばにいたくて、わたしが勝手についてきたんです! だってうれしかったから…だから、蓮也さんはぜんぜん悪くないです!
それに…きっと蓮也さんは、その女の人に会いたいと思ってたから…。だから実際、こうして帰りはずっと黙ったままで、きっと、蓮也さんも心の中で、いろんな気持ちの整理をつけたかったんだろうし…最初はわたしがあんなこと言ったから連れてったんだろうな、って思ってたけど、ちがってて、その女の人のためだってのがわかって…わたし、やっぱり…こんなこというのへんですけど、うれしくて… ちゃんと、相手の人のこと、大事にしてくれてたんだなって思えたら…その、ますます…蓮也さんのこと、が…きゃ、やだ、何いってんのわたし…」
また彼がふっと笑ってくれたけど、それはさっきまでのさみしい笑みじゃなかった。ちょっとだけ、うれしそうな…そんなやさしい、ほほ笑みだった。
「…あいつ、喜んでた。別れ話してるのに。オレが会いにきてくれたというだけで感激して泣いて…いつもこんなんだよ。別れることより、会えたことのうれしさで、泣かれたんだ…こんな風にしかつきあえない自分の弱さに正直…腹が立った」
そういって彼はまた窓の向こうに顔を向けた。
わたしは、蓮也さんの視線を追いながら、自分の手をぎゅっとにぎりしめていた。
蓮也さんの心が、泣いているみたいだったから…。