声恋 〜せいれん〜




「基礎練習は、だいぶ生活にしみついた?」




優一くんが言う。




「ん…なんだろう…最近…ちょっと怖くなっちゃって…」




「怖い…って、なにに?」




「ん…演じることの怖さ、かな。自分が乗り込もうとする世界の広さを、いまになってようやく知ったって感じで…」




はぁ…っ、とため息をついてしまう。なんだろ、まだはじまったばかりなのに…。




「桜木さんは、はりきりすぎなんだよ。まじめすぎるって言ってもいいかもね。そこが桜木さんのいいところなんだけどさ」




あれ、なんか優一くん、やさしい。いつもこっちがちょっかい出すときは冷たいのに、こういうときはやさしいんだね…。




「桜木さん…あこがれの神月蓮也と、会ってメアド交換、したんだって?」




「え?! なんでそれを…あ! エリカ! エリカね~、もお~、黙っててっていったのに~」




「黙ってることないじゃん、声優の勉強のためでしょ? だったらぼくたちにとっても大事な先生じゃん」




「うん…まあ、そうなんだけどさぁ…」




なんだろう。優一くんには…知られたくなかった。秘密にしておきたかった。そう思っていた自分に、今気づいた。




「桜木さん…いままで男性とつきあったこと、ある?」




「え、なっ…なに?! きゅうに! もっちろん、あるわよぉ~」




「あ、二次元なしね。妄想なし。蓮也と夢のなかでドライブデートとか、なしだから」




「ぐむぅ…な…ないです…」




「ふーん、それじゃあ、恋する女の子の役はできないなぁ。蓮也にもきっと、怒られるね。もっといろいろ経験しろって」




「うっ…! やっぱそうなのかなぁ…? あー、どうしよ~」




「じゃあさ、恋愛してみようか」




え…?



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