NOAH
皮膚病に苦しむ患者を目の前にして、恐怖や嫌悪感しか抱けなかった自分が、酷く情けなく、小さい人間に思えた。

「…一人にしといて」
 
小さくそう呟くと、シオは「ああ」と軽く返事をし、立ち去った。

 
それからしばらくそこに座っていたが、何となく立ち上がり、ブラリと歩き出した。

建物の入り口でキビキビと動いている見張りの者達。

広々とした室内で元気に走り回る子供達。

裁縫や食事の支度をしながら穏やかに会話を交わす大人達……。
 
しばらくその光景を壁にもたれながら眺める。
 
その後、また歩き出し、階段を上り始めた。
 
上りきって屋上に出ると、眩しい日差しに目がくらみ、思わず手を翳した。
 
目を細めて遠くの景色を眺める。
 
ここよりも少し低い建物が連なり、その屋上にはチラホラと人の姿が見えた。

銃を持っているのが見えたので、おそらくは見張りの者達なのだろう。

こんなに警戒するのは、何かが攻めてくるから?

しかし、砂漠の途中には放射能が未だ残る地域があるらしい。行き来は困難だ。

では……。
 
レイの目は、建物の向こうに見える透明なドームを捉えた。

黙認しているとは言っても、友好的な関係でもない。そういうことか……。


(何も……知らなかったんだな)

ここは、ドームの中の居住区とは反対方向にあるため、今までここの存在に気付かないでいたのだろう。

植えつけられる知識に疑問も持たず、この国の現状を知ろうともしなかったことが最大の原因だが。

< 105 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop