NOAH
ひとつ溜息をついて、ドームの向こうの景色に目をやる。

ドームからも見える景色……砂の平原。
 
この砂の向こうには何も無いのだと思っていた。けれど、僅かにではあるが、人がいるらしい…。
 
その人々も、ここにいる人々のように暮らしているのだろうか…。
 
貧しく、病気に苦しみ、それでも力強く生きようとしている。

(俺は……何をしていたんだろう……)
 
真上にあった太陽が地平線近くに傾くまで、レイはそこに突っ立っていた。



「ここにいたのか」
 
ふと声をかけられ振り向くと、シオが隣に立っていた。

「もうすぐ帰るよ」

「ああ…」
 
そう返事を返したまま動こうとしないレイ。
 

「どうした?」
 
その問いにもしばらく答えず、ただ前を見据えていた。そして、ぽつりと呟く。

「また……連れて来てくれるか?」

「ん? ああ、いいよ。あんたなら皆大歓迎さ」

「…博士の息子だから…か」
 
今までその存在を疎ましく思いながらも、どこか想い焦がれていた母親。
 
今は、どんな想いを抱いていいのか分からないけれど…。
 
自分のこれからも含めて、ここで真実を見極めていけば、答えが出るのかもしれない……。
 
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