NOAH
しばらく走っていくと、また声がした。

「レイ! どうしたんだ!」
 
いつもの口調。
 
ドームの中でいつもの姿を晒すのは不味いのではないのか…。しかし今のレイにはそれを気遣う余裕はなかった。

「レイっ」
 
やっとのことでレイを捕まえたノアは、暴れる彼の両肩を強く抑えつけた。

「おい、どうした? 何かうまくいかないことでもあったのか?」
 
白衣姿のレイを見て、ノアはそう言った。

「何でもねえよ!」

「何でもなくはないだろ? どうしたんだ」

「うるせえな、放っとけよ!」

「放っておけるか!」
 
ノアの手に力が入る。指が肩に食い込んで、その痛みでレイは少し冷静になる。

「…どうでもいいんだ…」
 
静かに、言う。

「え?」

「俺なんか…。どうでもいいんだよ…」
 
首を項垂れるレイ。その気持ちを量りかねて、ノアは怪訝そうに眉をひそめた。

「何だよ…。話してみろよ」
 
ノアは肩を掴む手の力を緩め、レイの顔を覗き込む。

 
レイは、ポツリ、ポツリと話し始めた。
 
先程の研究員達の会話。
 
今まで抱いていた母親への気持ち。
 
赤裸々に、とまではいかないが、気持ちが伝わるには十分だった。

< 115 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop