NOAH
「シオは…。ヒューイに大人しく付き従う、静かだけど強い人間…。そういう設定」

「設定…?」

「ノアでは…。あたしのままでは、弱さが出るから…。だからシオという強い人間に成り切ってたの。あのジジイと対等に渡り合う為に、弱いノアは置いてきたんだ」
 
溜息混じりにそう言うノア。

「ははっ、馬鹿みたいだろ?」
 
自嘲気味に笑う彼女からは、いつもの輝かしい青空のような明るさは感じられなかった。
 

(ああ…俺は…)
 
レイは、そっと、ノアを後ろから抱きしめた。

「こら、何してんだ」
 
そう窘める声がするが…。それも力ないもので、レイは更に強く抱きしめた。

(何で、強いなんて思ったんだろう…)
 
ノアの強さに憧れていた。
 
けれども…。
 
人はいつでも強くいられるわけではないのだ。そんな当たり前のことを、今更ながら実感した。
 
人は弱いから強さに惹かれる。
 
弱いから、こうして触れ合う…。


「俺じゃ、駄目…?」
 
答えは解りきっていた。それでも、そう言わずにはいられなかった。
 
ノアは少し間を開けて、ゆっくりと言った。

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