NOAH
「明日、スラムに行く日よね。皆元気かしら」

「ああ。トモの息子も大きくなっただろうな」

「出産に立ち会ったの、つい昨日のことみたいなのにね~…」

 
カツン、カツン。
 
足音がして、二人は振り返った。
 
そこには、レイと同じ白衣を着た男が二人、立っていた。

「お話中失礼します。レイ様に是非ご覧になっていただきたものがございまして」

「何だ?」

「ディージェ様の残された遺品です」

「母さんの…?」
 
一瞬だけ考えたが、レイはすぐに立ち上がった。

「分かった。すぐ行く」
 
と、パソコンの電源を落とす。

「じゃあな、ヒオウ」

「はあい」
 
ヒオウは軽く手を振った。
 
 
それが、〝レイ〟の見たヒオウの最後の姿だった…。






「こちらです」
 
ゴウン、と低い音をたて、大きな灰色の自動扉が開く。

足を踏み入れるとカツン、カツンと靴音が鳴った。

「ここは…?」
 
レイは辺りをグルッと眺めた。
 
直径百メートルはあるかと思われる広い円形状の内部は、全面冷たい灰色で覆われていた。温度も湿度も低く、ブルッと身震いする。


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