NOAH
ギュッと、ノアの手を握り締める。すると、ノアも握り返してきた。

「偉いよあんた。最高」
 
いつもの勝気な笑顔。こんな場面で、そんなことを言えてしまうノアに、少し苦笑する。

「これで、思い残す事はないな」

「…!」
 
思わず振り返る。

「…覚悟、してたんだろ? レイも…」

「ノア…」

「レイと一緒なら……怖くないよ」
 
そう言うノアの顔は、とても綺麗だった。
 
今この状況で逃げる事は不可能…。それは解っていた。
   
やるべきことはやった…。
 
『NOAH』が破壊されれば、母の遺言を果たしたことになり、レイはその宿業から逃れる事が出来る。
 
ここで潔く散るのもいいだろう…。
 
出来るなら……ノアと二人で、生きていきたかったけれど……。


ノアの冷たい手。

怖くないわけはない。震えそうになるその手に指を絡め、ギュッと握り締める。

「レイ…」

ノアもその手を握り返す。


本当は……。

本当は、まだ、生きていたかった。

レイと二人で、ずっと。

生きて、いたかった……。


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