NOAH
「ノア……死ぬな……」
 
一緒になら、死んでもいいと思った。けれど、いざ愛する者が死に直面した時、あっさりとその考えは消え去った。
 
助けたい。何としてでも、助けたい。

「無駄だ、このままでは一時間と保たないだろう」
 
レイについていた医師がそう告げる。

「うるせえ! だったら何とかしろ!」

「生憎、私はヒューイ様付きの医者ですので」
 
今にも天に召されそうな患者を目の前に、そんなことを言う医者がいるなんて!
 
レイは医師を突き飛ばすと、ノアを抱えて立ち上がろうとした。しかし折れた足ではノアを抱えて歩く事も出来ない。

「くっ…」
 
痛みがないのが幸いだった。座ったままの格好で、ズルズルと部屋の外に出て行く。残っていた部下達は何をするつもりだと、それを見守る。
 
レイは、『NOAH』の転移盤に向かっていた。
 
何度も階段を転げ落ちそうになりながら、必死にノアを運ぶ。

(まだ、間に合う…)
 
左足が変な曲がり方をする。痛みがないとはいえ、さすがに違和感がする。しかし、それに構っている暇はなかった。

(まだ、地球への道は閉ざされていない…!)
 
完全に破壊するまでには時間がかかる。今ならまだ地球へ飛べるはずだった。
 
同じ進化を辿っているという地球人。そこなら、きっとノアを助けられる…。かすかな希望を抱いて、転移盤の前に立った。

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