NOAH
それでも互いに目を見開いて、しっかりと相手の姿を捉えた。

息遣いが重なる、距離で。
 
ヒューイは、ニヤリ、と笑った。

「お前は甘い……。こんな刺し方では死なん……」
 
と、今にも短剣から手を離してしまいそうなレイの手を掴み、しっかりと握らせた。

「もっと……上に、引き上げろ……右の方、だ……」
 
レイは持てる力の全てで、短剣を上に引き上げた。
 
ズブズブと肉に食い込む感触が伝わってきた。

それだけでもう倒れそうだったが……ヒューイの小さな呻き声を耳にすると身体の中から力が沸いてきて、更に食い込ませた。

ヒューイは、倒れた。
 
そして、レイも倒れた。

「こ、この、愚か者が……」
 
短剣はヒューイの急所まで達しなかったようだ。まだ生きている。

「私を、苦しめるとは……ディージェ、め……ゴフッ……」
 
吐き出される多量の血。もう生きていても苦しいだけだろう。
 
ヒューイはもう動けないと覚ったレイは、ノアを探した。

「…ノア…」
 
何とか身体を起こし、這い蹲ってノアの下へ行く。

「いき、るんだ…」
 
彼女の手を取り、強く握り締める。

何とか、何とか転移盤へ……そう思うのだが、もう動く事は出来なかった。

レイはノアに寄り添うようにして倒れ、そのまま意識を手放した…。

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