NOAH
「……ノア?」
 
ヒオウは名を呼んだ。しかし、返事は返らない。

「ノア!」
 
彼女の手を取り、脈をみる。

「…ノア…」
 
ヒオウの目から涙が溢れ出した。彼女は、もう、旅立ってしまっていた…。

「…分かったわ。アンタの遺言、護るから」
 
ヒオウは溢れ出てくる涙を手の甲でグイ、と拭い、レイを担いだ。レイはまだ生きている。それを助ける事が、ノアの最期の望みだ。
 
ヒオウは転移盤に足を踏み入れた。二人は白い光に包まれる。

「…ノア」
 
レイが、呟いた。
 
それを聞いたヒオウは、また涙を流す。

 
ブウウウン…。
 
『NOAH』は最後の転送を開始した。レイ、ヒオウの姿は一瞬の内に消え去る。

 
それから数分もしないうちに、リトゥナには三つの核爆弾が落とされた。

外で激しい戦闘を繰り広げていた者達も、それを知らず必死に生きていた者達も、『NOAH』の中でただ苦しんでいたヒューイも、みんな、光に飲み込まれていった。




──黎は、止める事が出来なかった。
 
ここで起こったこと、全て解っていたのに。

触れることも叶わない、叫んでも自分の言葉は届かない。ただ傍観しているだけが、こんなにも苦しいなんて。
 
ただ泣きじゃくりながら、消えていった愛しい者の命を見送ることしか、出来なかった……。


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