NOAH
「…また、来るね、黎…」
 
目に滲んだ涙を拭い、乃亜は病室を出て行った。
 
静かにドアが閉められた後。
 
何かに導かれるように、黎の目が開いた。

「……」
 
真白な天井に、今までいた世界の景色が映る。

「ノア…」
 
自然に涙が溢れ、ポタリと枕に落ちた。
 
ゆっくりと現実の世界が見えてきて、黎はムクリと起き上がった。
 
静かな空間。
 
窓の外には陽の光溢れる美しい景色。かすかに聞こえる子供達のはしゃぐ声。
 
体が震えてきた。
 
この美しい世界に彼女はいない。その現実。


「う……うああああっ!!!」
 
気が付いたら、傍にあった丸椅子を掴み、振り上げていた。

 
ガシャアアアンッ!

 
凄まじい音に、診察中だった聖は顔を上げた。

「せ、先生、今のは!?」
 
看護師が驚いて音のした方を見る。今呼び入れようとしていた患者のカルテが、ヒラリと落ちる。

「すみません、ちょっと待っていてもらえますか?」
 
そう言い、聖は黎の病室へと向かった。

< 175 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop