NOAH
黎のいる病室へ飛び込むと、ヒュウ、と風が舞い込んできた。
 
バタバタと揺れるカーテン。
 
下半分割られた窓。
 
床に散乱する硝子の破片。
 
丸椅子を持ち、立っている黎。

 
その光景を見た聖は、全てを理解した。
 
黎は記憶を取り戻した。そして、愛する者を失ったことで錯乱しているのだということを。

「うわあああ!」
 
更に椅子を振り上げる黎を、止めに入る。

「黎! 落ち着け!」
 
腕を掴み、椅子を取り上げる。

「放せ!」
 
黎は抵抗するが、聖の力の方が上だった。あっさりと押さえつけられ、ベッドに座らせられる。

しばらく抵抗したが──まったく歯が立たなかった。黎はフッと力を抜き、今度はまったく動かなくなった。
 
そこへ、先程まで病室にいた乃亜、そして自宅の方にいた陽央が駆け込んできた。

「黎…!」
 
黎の目覚めに、乃亜は一瞬だけ笑みを浮かべたが、その様子に表情が曇った。陽央も同様だ。
 
陽央はゆっくりと黎のもとへ行き、膝をついた。

「黎、良かったわ目が覚めて。…気分はどう?」

「……」
 
黎は何も答えなかった。
 
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