NOAH
それを見た乃亜も、黎のもとにやってきた。

「…黎? 頭……大丈夫? ごめんね、私のせいで怪我しちゃって……」
 
そっと、包帯の巻いてある額に触れた。
 
黎の体がビクッと震える。

「…触るな」
 
黎は乃亜を睨みつけ、小さなその手を払いのけた。

「黎!」
 
陽央が非難の声を上げる。しかしそれを無視して黎は立ち上がった。

「…もう、俺に、関わるな…」
 
と、足早に病室を出て行く。

「アタシ、追いかけるわ」
 
陽央は聖に目配せする。聖は軽く頷いた。

「頼む」
 
 
  
陽央が出て行ってから、乃亜へと視線を転じる。
 
彼女は、固まったまま動かなかった。黎の座ってたベッドを見つめたまま。
 
相当ショックだったのだろう……と、聖は何かいい言葉はないかと頭を巡らせた。すると、聖が口を開く前に乃亜が言葉を発した。

「…ねえ、聖さん。黎、別人になっちゃったのかな…?」
 
答えかねていると、乃亜は更に続けた。

「私、そうは思わないよ…」

「…え?」
 
その言葉は意外だった。
 
その真意を伺ってみる。

「だって、手が、震えてた。…ああすることが、辛そうだった」
 
乃亜は聖を振り返り、僅かに笑みを漏らす。

「ねえ、私、まだ頑張ってもいいかな?」
 
その言葉に、聖も笑みを返した。

「ああ、こっちがお願いしたいくらいだよ」

そう言う聖に、乃亜は大きく頷いた。





< 177 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop