NOAH
「こんにちは~」
 
夕方になり、学校が終わった乃亜は櫻井家にやってきた。

「いらっしゃい、乃亜」
 
出迎えたのは陽央。

「また来てくれたのね。ありがとう」

「ううん、私が勝手にやってることだから」
 
乃亜は明るく笑ってみせる。

「うん、でもありがとう。…あ、李苑ちゃんが出かける前にシュークリーム作ってくれたの。一緒に食べてねって言ってたわ」

「本当? わーい! じゃあ、後でいただくね」

「ええ。アタシ外にいるから、黎に振られたら呼んでね~」

「むう。今日こそ心開いてもらうからっ」
 
ちょっぴりふくれっ面で、乃亜は階段を上がっていく。

今日も黎は部屋に閉じこもっているようだ。
 
いつも乃亜が来ると部屋から出て行ってしまうけれど…。

でも、思うのだ。

何故、乃亜が来る前から姿を消さないのか。それは、少しでも自分に逢いたいと思ってくれているからではないのか。
 
──そんな希望を持って、今日も部屋のドアをノックする。

「黎~? また来たよ~」

 

ノックの音に、黎は顔を上げた。

「……」
 
一番、逢いたくない相手だ。
 
乃亜を見ると、辛い気持ちだけが表に出てくる。顔も見たくないし、声も聞きたくなかった。

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