NOAH
ガチャリ。
 
ドアが開く。

「こんにちはっ。…あれっ、今日は起きてたんだね」
 
いつもの笑顔で、乃亜は部屋に入ってくる。
 
そして、ベッドに座っている黎の目の前の床に座り、カバンを広げた。

「これは今日の授業のノート。黎、いくら天才だからって、あんまり休みすぎるとついていけなくなっちゃうよ」
 
と、一箇所を留めた何枚かのルーズリーフを差し出す。

しかし黎は反応を示さず、乃亜は仕方なくベッドの上にそれを乗せた。

「来週は三者面談もあるんだよ。黎は聖さんに来てもらう? 李苑さん身重だし、陽央じゃちょっと頼りない……あっ、これじゃ陽央に悪いね」
 
あはっ、と肩を竦めて笑う可愛らしい姿にも、今の黎は苛つくばかり。

しかし乃亜は、いつも寝ていた黎が起きているのが嬉しくて、つい饒舌になった。

「クラスの皆も、黎がいなくて寂しがってるよ。あの天然がいないと教室が静かだって。でも奈津子には『一番寂しがってるのはあんたでしょ!』なんて言われちゃって~…」

「…帰れ」
 
耐え切れなくなった黎は、低い声でそう言った。

「あっ……ごめんね、うるさかった? つい喋り過ぎちゃった。……じゃあ、明日また来るね」
 
なるべく明るい笑顔を作り、乃亜は立ち上がった。

「来なくていい。…うんざりだ」
 
黎はまたも冷たく言い放つ。
 
乃亜は怯みそうになるが……ギュッと拳を握り締め、耐えた。




 
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