NOAH
乃亜は、ゆっくりと口を開いた。

「違う…。貴方は黎だよ。黎もレイも……。貴方だよ」
 
大きな力強い瞳で心を射抜かれる。

「うまく言えないけど…。“黎”は貴方の一部なんだよ。
記憶を失っても、貴方は貴方で、あの黎は貴方の本質の部分で……えっと……ごめん、うまくまとまんない。でも、だから……私は貴方を好きで……だから、また来るよ」

「俺は……お前なんか大嫌いだ」
 
乃亜につられたのか、静かにそう告げた。
 
だが、彼女は笑った。

「うん、いいよ。仕方ないもん…。でも、やっぱり黎には元気になって欲しいから」

黎はギリッと奥歯を噛んだ。

 

──“それじゃ駄目なんだ”



伏せていた瞳を、乃亜に向ける。
 
その黎の目を見て、乃亜は背筋に悪寒を感じた。

「…へえ、随分愛されてんだ、俺」
 
唇の端を上げ、笑う黎の顔は、今まで見たことのないくらい狂気を帯びていた。

乃亜は思わず後ずさりする。

それを見た黎はクッと笑い、勢い良く立ち上がると乃亜の腕を掴み、そのまま壁に押しやった。

「黎っ…!?」

「なんて顔してんだよ。お前が言ったんだ。“俺”が好きだってね。お前がどう思ってるのか知らねえけど、俺は“黎”みたいに優しくしねえからな」
 
と、いきなり口付けてきた。
 
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