ＮＯＡＨ
「じゃあ、何か暖かいもの持ってくるね」
　
その人の穏やかな笑みで、少し安心することが出来た。

自分ばかりでなく、周りの者たちもピリピリと張り詰めた空気を醸し出していたのが、それで解き放たれる。
　
茶色の髪の女が部屋を出て行くと、他の３人の顔も穏やかになった。

「ごめんね、レイ、アタシびっくりしちゃって。レイの方がびっくりしちゃったわよね。何も分からないんだもの」
　
女の語りかけてくる口調も柔らかくなった。

「アタシ、ヒオウ。レイのお兄ちゃんよ」

「……え!?」
　
その言葉に、レイは目を丸くした。それに気付いた女──いや、男は、くすっと笑った。

「アタシ、男よ。だから、お兄ちゃん」
　
ヒオウと名乗る兄は、綺麗な顔立ちをしていて、とても男には見えなかった。

本当に男なのだろうか……疑いを抱くが、その疑問を口にする前にヒオウは言葉を繋げた。

「それでね、この人が聖くん。レイを助けてくれたお医者様よ」
　
ヒオウに紹介されると、聖は軽く頭を下げた。随分若いという印象を受けるが、二十代前半くらいだろうか。

「それから…」
　
ヒオウが振り返った時、先程部屋を出て行った女がスープらしき皿を持って現れた。

「この人が李苑ちゃん。聖くんの奥さんなの」
　
李苑は病床用のテーブルの上にスープ皿を乗せ、レイに微笑みかけた。

「どうぞ」
　
レイは李苑にペコリと頭を下げた。

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