NOAH
あまりに急な出来事で、乃亜は一瞬頭が真白になった。

しかし、無理やり口を開けさせられ侵入してきた舌に、ようやく手足をバタつかせて抵抗する。

「んん~っ!」
 
声も上げられず、痛いほどに掴まれた腕は振り解けない。バタつかせる足も黎の足で押さえられてしまった。
 
気が付いたらブラウスの上から胸を強く掴まれていた。

「や…やだっ、黎っ!」
 
何とか顔を逸らし声を上げるが、黎は止めない。

「いやっ…!」

小さな叫びを無視し、滑らかな太腿を撫で上げる。

ビクリと震える小さな体。

「俺が好きなら、ちゃんと相手しろよな」

耳朶を甘噛みしながら囁くと、乃亜の抵抗がピタリと止んだ。
 
黎は静かに顔を離し、乃亜を見た。

きつく閉じられた目から流れ出る涙。
 
震える小さな肩。

「……分かっただろ」
 
黎は嘆息し、手を離してやった。

「俺は“黎”じゃない」

「──っ」
 
乃亜は黎を押しのけると、勢い良く部屋を飛び出して行った。
 
黎はそれを見送ることなく、ベッドを振り返る。
 
残された鞄がぽつんと、床に落ちていた。
 
ベッドの上には、乃亜の字で書かれた授業のノート。



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