NOAH
その拍子に李苑は後ろによろける。黎は素早くナイフを拾い上げた。

「駄目! 黎くん!」
 
李苑は黎に飛び掛る。

「離せっ!!」

「駄目よっ!」

「俺はノアのところに行くんだっ!」

「黎くん!」
 
と、その時。
 
僅かな間ではあるが、激しいもみ合いをしたせいでお腹に負担がかかったのだろう。一瞬腹部に痛みを感じ、李苑は体から力を抜いた。

だがそのせいで力の均衡が崩れ、黎は思い切り李苑を突き飛ばす形になってしまった。

カウンターに勢い良く背中を叩きつけられ、床に倒れる。
 
さすがの黎も、ハッとした。

「おかあしゃん?」
 
雛がカウンターの影から覗き込んでいた。李苑はその声に起き上がろうとしたが……腹部を中心に体中に激痛が走り、動く事が出来なかった。

「……うわあああん、おかあしゃあんっ!」
 
異常を察したのか、雛はわあわあ泣き出した。

「何の騒ぎっ!?」
 
外から陽央が戻ってくる。
 
キッチン内に倒れる李苑を発見すると、陽央は青ざめた。

「…聖くん!」
 
くるりと踵を返し、医院の方へ走る。

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