NOAH
「うわあああ、れいくんのばかーっ!!」
 
雛の喚き声を聞きながら、しかし心はどこか遠くへと行ってしまったかのような感覚に襲われた。
 
みるみる青ざめていく李苑の顔。額から流れ出す汗。両腕で包まれたお腹には──皆で誕生を心待ちにしていた赤ちゃんが。

「あ……」
 
何かしなくては──そう思うのだが、体が硬直して動かない。
 

「李苑!!」
 
聖が駆け込んできても。
 
皆が色々叫んでいても。
 
自分の体を揺さぶられても。
 
動く事が出来ない。まるで何かに縛られているように。
 
 
救急車のサイレンがして、隊員達が駆け込んできた。
 
わあわあ騒がしい中で。
 
黎には、李苑の声が聞こえた。
 
この喧騒の中、とても静かに。


「黎くん……生きて」

 
パチン、と弾けるように、意識が戻ってきた。

「…李苑…ちゃん…」
 
呟いた途端、バシッと背中を叩かれた。

「あんたも行くのよ! グズグズしないで!」

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