NOAH
救急車には、櫻井医院に先代院長の時から勤めるベテランの看護師長が乗り込んでいた。

聖はどうしたのだろう……と考えているうちにタクシーがやってきて、雛を抱っこした陽央とともに、それに乗り込んだ。
 
車内ではすすり泣く雛を、陽央がずっと励ましていた。

「…聖くんは…?」
 
黎は先を行く救急車の赤い光を目で追いながら、小さく呟く。

「患者さん、放っておけないからって…。こんな時に限って混みあってるんだもの…」

陽央の声音から、焦りが感じられる。



もし李苑に、赤ちゃんに何かあったら──。

皆が笑顔で取り囲むダイニングテーブルが脳裏を過ぎると、体中が震えだした…。



タクシーを降り、病院内に駆け込む。
 
受付の案内の通りに廊下を進んでいくと、処置室の前に看護師長が立っていた。
 
陽央は師長に駆け寄り、何か言葉を交わしている。
 
黎は少し離れたところからそれを眺めた。
 
しばらくして処置室から医師らしき人物が出てきて、陽央と師長に語りかけてきた。

黎のいる場所までははっきりと聞こえないが、「危険だ」という言葉だけ、耳に届いた。
 
雛を師長に預けた陽央は、血相を変えてこちらに走ってきた。

黎とのすれ違い際に「聖くんに電話してくるから、ここで待ってて」と言い、また走っていく。
 
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