ＮＯＡＨ

それぞれの気持ち

都会の喧騒を遮るようにに生い茂る、背の高い樹木の森。

その中心に、三階建ての白く大きな建物が建っていた。建物の上部には、銀の文字でこう記されている。

『紫乃原医療センター』
　
長期療養を必要とする患者を受け入れるサナトリウムとして機能しているが、実は様々な医療研究がなされている施設でもある。

だからこそ、黎の治療も秘密裏に行うことが出来、そして成功した。

一般の病院とは違うため、訪れる人も少なく、ひっそりとした施設内。
　
駐車場に車を停め、下り立った聖は、重苦しい表情でその建物を見上げた。そして、ひとつため息をつくと、建物の中に入っていった。
　
中に入りロビーを過ぎると、すぐに目的の人物に会うことが出来た。

「やあ、久しぶりだね」
　
スラリと背の高い眼鏡をかけた男が、優しそうな笑顔で出迎えてくれる。

「はい…。早乙女さんもお元気そうですね」
　
聖は、早乙女の優しい笑顔に苦笑しながら答えた。

「まあまあ、そんな顔をしないでくださいよ」
　
早乙女は変わらず優しい笑顔で、聖を誰も居ない部屋へと案内した。
　
パタン、と扉を閉めた後、早乙女はかけていた眼鏡を人差し指で上げ、そして言った。

「お互い忙しい身ですからね。さっそく本題に入りましょう。…彼らは、その後どうですか？」