NOAH
すると、ハッとしたように陽央は笑った。

「別にいいわよ。ごめんなさい、うるさかったかしら」

「ううん、違うんだ。心配して言ってもらってるのに、変なこと言ってごめん」
 
そう謝る黎は、いつもの穏やかな黎だった。

「早く食べないと乃亜が来ちゃうね」
 
ぼうっとしていたため、まったく手をつけていなかった朝食を急いで掻っ込む。
 
そんな黎を陽央は不安そうな目で、聖は厳しい目で、李苑は心配そうな目で見つめた。
 
──『その時』が、近づいているのかもしれない……と。
 
そしてその不安は、現実のものになってゆく…。

 

朝食の片付けをしていると、いつものように乃亜が迎えに来てくれた。

「おはよっ」
 
いつもの明るい笑顔に、黎はニンマリと笑った。 

「おはようっ!」
 
元気よく挨拶を返し、乃亜に続いて玄関を出ようとした時だった。
 
乃亜の後ろ姿が、一瞬だけ揺らめいた。

(…あれ?)
 
揺らめいて、揺らめいて、蜃気楼のように薄れていく…。

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