NOAH
痛みのあまり、少し涙目になる黎。そんな彼を見て、乃亜はニカッと笑う。

「これでおあいこっ」
 
その笑顔に、自然に笑みがこぼれる。

(やっぱ、いいな)
 
彼女の笑顔は心を癒してくれる。

(乃亜が一番、好きだ…)
 
自分の中にある大きな想いを、改めて感じる。
 
この想いを伝えたい。
 
乃亜に、この想いを…。

「じゃあ黎、また明日ね」
 
その声にハッとすると、もう高倉家の家の前に来ていた。乃亜は軽く手を振り、玄関の方へと小走りに走っていく。

「あ…」
 
今、言わなくては。
 
そんな衝動にかられた。
 
乃亜は鞄から家の鍵を取り出し、鍵穴にそれを差し込んでいる。
 
黎は名前を呼ぼうと短く息を吸い込んだ。すると。

「あれっ?」
 
乃亜が小さく声を上げた。
 
黎は開きかけた口を閉じ、一呼吸置いてから乃亜に駆け寄った。

「どうかした?」

「…鍵、開いてる…」
 
乃亜は不安そうな目で黎を見上げた。

「えっ? 誰か帰ってきたんじゃないの?」

「ううん、今日はお父さんもお母さんも残業だって言ってたし…。それに、今朝お母さんと一緒に出て、ちゃんと鍵かけたの、覚えてる…」

「……」
 
二人の脳裏には、おそらく同じことが過ぎったのだろう。
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