NOAH
一瞬だけ出来た隙を泥棒は逃さなかった。

胸ポケットに忍ばせていた小型ナイフを素早く切りつけてくる。
 
反射的にそれを避ける。しかし、次に飛んできた蹴りは避けることが出来なかった。
 
みぞおちに蹴りを喰らい、ダアンッと床に叩きつけられる。そこでおとなしく倒れていれば良かったのだが、つい条件反射で身を起こしてしまった。

「黎っ!」
 
乃亜の悲鳴が耳に飛び込んできた。次の瞬間、頭に鈍い痛みが走った。──鈍器で殴られたのだ。
 
目の前が真っ暗になる。

「黎っ!!」
 
警察に連絡を入れた携帯電話を放り投げ、乃亜は黎に駆け寄った。

「黎! 大丈夫!? ねえっ!」
 
すぐ傍で乃亜の声がする。目を凝らしてその声の方を見た。霞んだ目に人影が映る。

「……のあ?」
 
そう、呟くと。

パアッと視界が開けた。

(え…?)
 
目の前にいたのは乃亜ではなかった。
 
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