NOAH
陽央の目線は黎の少し前にいる人物に向いている。

「なーにが気持ちよく、だよ…」
 
黎の目の前の人物が気だるそうに言った。

『…俺…?』
 
目の前で赤茶色の髪を気だるそうにかきあげている人物は、紛れも無く、自分であった。──少し前の。
 
陽央も現在よりは華奢な感じで、女言葉で喋っていると、本当に女に見えそうだ。

『俺は過去にいるのか…?』
 
そう結論が出るまでに時間はかからなかった。ここは夢の中か。記憶の中にでも迷い込んだのか…。
 
夢の中の自分──レイは、天蓋付きのベッドから降りると、裸に上着を一枚纏っただけで歩き出した。数歩歩いたところで、陽央──ヒオウを振り返る。

「そういやあ…。あれは? 隣に女いただろ」
 
その台詞に、ヒオウはニコッと笑い、

「あの女の子なら丁重に追い払ってあげました。…いい加減、メイド連れ込むのやめなさいよね。あの子、また違う子なんでしょう?」 
 
最後の方は少しため息混じりに言った。

「他にやる事ねえんだよ」
 
と、レイはまた歩き出す。

「女の子は大切にしてよ。……数が少ないんだから」

「放射能の影響、か。別に俺には関係ない。むしろ、種の繁栄には貢献してるんじゃねえ?」

「──レイ!」




 
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