NOAH
〝母親〟。
 
それがもう一つの理由。
 
母のことは大嫌いだった。…そう、〝だった〟。
 
母は病気のため、レイが十歳の時に亡くなっている。
 
いつも何かの研究のため自分の傍にはいてくれず、いつの間にか死んでしまった母。──レイは、その死体を確認したのが、初めての母との対面だった。

青白い寝顔を見ても、涙は出てこなかった。

ただ、僅かに、悔しさと憎しみと──寂しさを感じただけ。


レイの傍にはいなかったけれど、いつも父、ヒューイには寄り添っていたという母。
 
 
それは、子供染みた感情であると思った。
 
母を恋しがって寂しがるなんて、格好悪いことだと思った。そんなことを心の奥で思っているなんて自分でも認めなくなかったから…。今は両親のことは考えないようにしている。

「あー、くそっ、つまんねえっ!」
 
久々に母のことを思い出し、イライラして大声を上げた。

「急に大きな声出さないでよ、びっくりするじゃ……あああっ!!」
 
大声を注意したヒオウであったが、遥かにそれを凌ぐ大声を上げた。

「な、なんだよ」
 
逆に驚かされたレイは、内心ビクビクしながら聞き返す。

「アタシはこんな説教しに来たわけじゃなかったわ。アンタのシケた顔見てたら思わず違う方向に行っちゃった」

「…うるせえ、オカマ」

「なによ、年中発情期男」
 
と、軽く言い合った後、ヒオウは言葉を続けた。

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