ＮＯＡＨ
太陽が沈み、三日月が夜空に輝く頃。
　
レイは石造りの壁をヒョイ、ヒョイとよじ登り、バルコニーに降り立った。

後宮内は無数の監視カメラが作動しているが、死角となっている場所は知り尽くしていた。いつも後宮を抜け出す時に使うルートである。
　
バルコニーから部屋の中を覗き見る。中にはヒューイの新しい妻、シオがいた。

「おっし」
　
ニヤリと笑うと、窓に手をかけた。…が、開けるのは躊躇した。
　
ソファに腰掛けるシオの隣には、ヒューイが座っていたのだ。ワイングラスを片手に、シオの美しい髪を優しく撫でている。

（エロジジイが…）
　
レイは顔をしかめる。
　
どうやら今日は作戦を実行出来そうにない。諦めて窓から離れようとした、その時。

ヒューイの部下らしき者が現れ、しばらく何かを話しているようだったが、やがてその者と一緒にヒューイも消えた。

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