NOAH
思いがけずチャンスが巡ってきた。
 
レイは静かに窓を開ける。
 
部屋を出て行ったヒューイを見送ったシオは、まだこちらに背を向けていた。

どうやらレイが侵入してきたことに気付いていない様子。
 
足音を忍ばせて、シオから三メートルばかり離れたところに立つ。そこでシオが振り返った。
 
彼女はいるはずのない侵入者に驚いた様子だったが、それがレイであると認識すると、少し安堵の色を浮かべた。

「レイ様…。脅かさないで下さい。どちらからおいでに? お父様に御用ですか? でしたらたった今…」

「いや、用があるのはあんただよ、〝母上様〟」
 
妙に含みのある言い回しで、レイはシオに詰め寄る。

「随分と寂しげなご様子。父上に置いていかれて寂しいのであれば、私が慰めてさしあげましょうか」
 
と、銀の髪に手を伸ばす。その一瞬で身の危険を感じたのか、シオはくるりと背を向けた。

「いいえ、結構ですわ。どうぞお引取り下さい」
 
足早にドアに向かって歩き出したが、それをレイは許さなかった。

彼女の細い手首を掴むと、先程シオ達が座っていたソファまで力任せに引っ張った。

「きゃっ」
 
小さく悲鳴を上げながら、シオはソファに倒される。

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