僕は忘れるんでしょうか
「おぉ…!よく来たなアスラ!着任式以来だったか?」
「はい、そうですね
その節は大変、お世話になりました
…近くに住んでいるのに中々ご挨拶に伺えずに申し訳ございません」
椅子の前の低い3つの階段の先、約5メートルの位置に止まりアスラは片膝をつき頭を下げる
「構わん気にするな
そういえば最近、会わんが“グラコス”は元気か?」
「はい、おかげ様で…
ご存じのとおり、何しろ父上は国政が多忙で供に来訪するのも困難なご様子だったもので…雷帝様の寛大なお心でご宥恕を乞いとう存じ上げます」
「そう堅くなるなアスラ
久し振りにグラコスとあの時の話をしたかったが、またとするか
――さて、攻めるか…!
何事も先手をうつのが定石だからな
……ところで今日は何の用件で来たんだ?」
「実は雷帝様に少しご相談があるのですが…」
「ははっ、やはり下心があったか!
して…私に相談とは何かな?」
――さぁ、舌戦の開幕だ…!
「……雷帝様は黒騎士団の来襲の話はお聞きになりましたか?」
「あぁ、既に知っておる
確か……此度の総監はレッドに決定したらしいな」
「はい、その事なのですが…」
「どうした?遠慮せず申してみろ?」
――成る程…やはり、そこを突かれるか
「では、お言葉に甘えまして…
こちら側の意見、つまり白鳳隊の意見としましては残念ながら“レッド殿が我々の上に起つことは考えられない”という結論に至りました」
「何故だ?代表者会議でも、そう決まったのであろう?」
――“残念ながら”か……心にも無いことを
「確かに代表者会議ではそう決められましたが幾分、将兵たちの不平不満が強く……理由は勿論お分かり頂いていると思いますが…そこで私めに、この不安要素を払拭する策がございます」
「何だ?献策してみろ?」
――…どうせ私がアスラを総監の地位に推挙しろという話だろうな
「はい、私が考えた策は“水魚の計”でございます」
「水魚の計…?何だそれは?」