君と、恋
「…はぁ」
呼び鈴を鳴らす。
玄関の前で、風邪をひいたらしい
十夜が出てくるのを待つ。
「…本当に、風邪だな」
十夜は、いつも風邪をひくと
誰かが来ても玄関には
出てこない。
そのくせ、不用心で
玄関のドアの鍵は開けっぱ。
「出来れば…入りたくなかったな」
あれ以来。
入るのが怖くて。
仕方ない。
「十夜~?入るよ?」
何も返事がない。
仕方なく靴を脱いで中に入る。
静まり返った家の中だからか、
いつもより緊張している
自分がいる。
「…十夜?」
部屋の前で、名前を呼ぶ。
返事はなくて、何も聞こえない。
「入りま~す…」
静かにドアを開けると、
十夜はベッドで眠っていた。
「本当だったんだ、風邪って…」
手に持っていた紙袋とビニール袋を、
床に静かに置く。