君と、恋
「帰るから…っ」
ドアに手をかけると同時に。
十夜の手が、あたしを掴んだ。
「ここにいろよ」
ここに…、いろよ?
「は、何言ってんの。あたし…これから哲と会うから」
「会えよ。それまででいい。ここにいろ」
どうしてこんなに。
あたしはこいつに弱いのか。
「本当に…、それまでだからね」
開かれた布団に、
吸い込まれるようにして
入ってしまう。
導かれた先が、
ここだと言わんばかりに。
あたしは隣に寝てしまった。
「風邪…移さないでよ?」
「分かんね。移れよ。そしたら俺が楽になる」
「ふざけんな、ばか」
そう言って笑う。
今までは当たり前だった。
「うるせえよ、病人の横で暴れるな」
だけど今はこうしていられるのが、
嬉しくて嬉しくて仕方ない。
幸せ、というものを。
もしかしたら感じているのかも
しれない。
「紗月こっち向けよ」
「何、ちょっと痛っ…」
「このままじっとしてろ。俺は眠てぇんだ」
向かい合わせになったまま。
あたしをぎゅっと抱きしめて、
十夜は1人眠りについた。
さっきまで寝ていたのに、
また寝始めた十夜に
心底呆れたけど。
病人だということに免じて、
大目に見てやろう。
こうして一緒に眠れるのも、
今だけ。
この温もりも、優しさも。
本当はあたしのものじゃない。
だから今だけ。
今だけ貸してもらうの。
そんなこと思ってるなんて、
あたしどんだけバカなんだろ。