君と、恋


















鞄を持って、ドアを開ける。


十夜に目を向けると、


やっぱりまだ起き上れないのか


うなされている。






















「それじゃ…」














「ばばあとかいねえ?」














「え?」
























力を振り絞り、起き上がったかと


思えば、立ち上がって


あたしの方に向かってくる。























「そういえば、ばばあと壱…どっか行くとか言ってたっけ」


















「あ、そなの…?」















「まあ、どうにかなるだろ。自分で飯くらい…」




















咳込む十夜を横目に、


行くに行けない。


行こうと心で思うのに、


体が言うこと聞かない。





















「何してんだ、お前。早く行けよ」

















「…十夜、」















「いいから。早く行け」
























背中をぐっと押され、


勢いよく階段を下りる。


玄関のドアを開けて、


十夜の家を後にする。























「哲!」





















あたしの家の前の壁に


寄りかかる哲に手を振る。


哲は驚いた様子で、


あたしを見つめる。























「あれ、そっちは…」

















「あ、うん。そう…、十夜ん家」






















背中にある十夜の家が、


何だか恋しい。










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