君と、恋
「紗月!」
胸が張り裂けるかと思った。
後ろから呼び止める、哲の声が、
すごく切ない。
「…待って。俺の話を聞いて」
ゆっくり近付く音がする。
哲がきっと、
あたしの方に歩いてる。
静まり返った教室で、
あたしの息と、
哲の足音だけが響いている。
「あたし…何も話すことなんて、」
「何で…そんなことするの?」
拍子抜けする、哲の発言。
「…え、何?」
「俺はね。紗月をいい加減な気持ちで見て来た訳じゃない」
不覚にも。
あたしは見つめる哲の目を
見つめてしまう。
「半端じゃない気持ちで、紗月が好きだった」
「…でも、あたしっ」
「紗月は。理由も無しに、そんなことしない」
彼がそう言うから。
何故か気持ちに隙が出来て。
涙が溢れた。
「嫌われようなんて無理な事しないで。紗月らしくない」
こんなにもあたしのことを
見てくれているこの人を。
あたしは今、手放そうと
しているんだ。
「紗月、本当のこと言って。俺は全部受け止めるから」
このまま、話聞いていいかな。
哲はそう言って。
あたしを優しく抱きしめた。