君と、恋
「あたしね…、本当は哲がずっと好きだったよ」
言葉を一つ一つ繋ぐ。
嗚咽と共に、途切れる言葉を。
必死にあたしなりに。
「さっき言ったことは全部嘘。辛かったことなんて1つもない。楽しくなかったことも、全部嘘だから」
うんうん、と頷く哲。
「でもね、これだけは言えなかった。あたし、ずっと好きな人がいたの」
「…それは、藤田だよね?」
名前を出されると同時に、
反応するあたしの体。
頷くと、哲はやっぱりと
小さく言葉を零した。
「だけど、あいつには彼女が出来て。あたし…きっと哲を利用したの。だけど、哲のことはずっと憧れてはいたから。付き合って好きになってた」
付き合って並んで歩いた帰り道も。
一緒に遊びに行った遊園地も。
こうやって過ごした日々も、これからは。
哲と一緒に居られない。
「初めは好きにならなきゃって。だけど、自然に哲が必要になってて。何をするのも、真っ先に報告するのも全部哲だったよ」
抱きしめられる力が強くなる。
哲の匂いが、体に染み込む。
「でも哲じゃないの。あたしが一緒にいなくちゃいけないのは…哲じゃない」
少し震えているのか。
哲は頷きながら、回した手を
離そうとしない。
「でも哲のことは、本当に好きだった。かけがえのない、あたしの大切な人だった」
あたしがそう言うと。
哲はゆっくりあたしを自分から離すと、
あたしの背後に回って、後ろから
抱きしめてくれた。
「今度は俺の番。最後に話聞いて」
最後に、と言った哲。
あたしは彼が、最後を決意したのだと
分かった瞬間。
自分勝手なんだけど、
寂しい気持ちでいっぱいになった。