君と、恋
『紗月ちゃん、今教室?』
「はい」
優しい声が、あたしの胸をくすぐった。
今すぐ会いたいって、思った。
『教室来てくれる?待ってるから』
「分かりました。今行きます」
電話を切ると、あたしは
わざとため息をついた。
「十夜、もう行けばいいよ?彼女、待ってんでしょ?」
本当はこんなこと、言いたいわけじゃない。
もっと優しく、おめでとうって。
よかったねって言ってあげたいのに。
彼女が出来たんじゃ、
あたしが何をしても
もうどうすることも出来ない。
「お前、帰んねぇの?」
「好きな人の所行かなきゃ。」
あたしはそう言い残すと、
鞄を持って教室を飛び出した。
廊下を歩きながら、
教室を探して歩き回った。
何回も行ったことあるはずなのに、
今日だけはすごく遠く感じた。
教室の目の前に着くと、
息を少し吐いてドアをノックした。
「紗月です」
「入っておいで」
中から聞こえる優しい声に引き寄せられるように、
あたしは静かに教室に入った。