君と、恋
「うっわ、めんどくせ…」
「は?」
そこにいる人物は。
煙草を片手に持った男。
黒い縁のメガネをかけていて、
スーツのネクタイは緩まっている。
むしろ、さっき挨拶していた
男とは別人と言っても
おかしくない。
冗談抜きで、別人だ。
「仕方ねえ。まあ、そう驚くなって。いいだろ、人間なんだから」
可笑しそうに笑う速水を、
あたしは白い目で見た。
「何…これ。どういうこと?」
「どういうこと…って、こういうことだよ」
悪びれる様子もなく笑う男。
本当の姿だ、とでも言いたいのだろうか。
信じられない。
こんなの…、おかしい。
こいつ頭悪いんじゃないの?
「お前、英語係ってやつ任命。てか命令な」
「は?意味分かんなっ…」
「分かる分かる。十分分かる。お前の頭は大丈夫か?」
完全にバカにした態度で、
あたしをたしなめる。
まるで様子を
伺うように。
「どういうつもりか知らないですけど。係になりたいって思ってる子、山ほどいると思うんで、変わってもいいですか?」
冷静に、事を大きくしないように
言葉を発すると。
速水は笑って。
「拒否。とにかくお前が係だから」
楽しそうにあたしを見ていた。