君と、恋
「とりあえずお前、これ持て。今日の教材」
「は…、これくらい自分でっ」
「いいだろ。お前係なんだから」
あたしにプリントを持たせると、
速水は煙草を灰皿に押し付け
上着を羽織った。
「あ、そうだ」
「…ふぇっ」
いきなり速水が
ドアの近くにいたあたしの口に
自分の手を当てたかと思うと、
あたしの腰を手を回し
抱きしめられる形になった。
「お前このこと他にバラしたら…ただじゃおかねえから。な?」
速水は、あと数ミリの近さまで
顔を近付けると。
「…何だその顔。爆笑もんだぞ」
額にキスをして
バカにしたように笑うと、
朝会った時の仮面を被った姿に
戻ってあたしより先に
廊下を歩いて行った。
「は…、まぢ、何なの…」
不覚にも、少しだけ
ドキ…なんて感じた自分が
情けなくて仕方ない。