君と、恋
たくさん泣いた。
気が付けば、外は薄暗かった。
「哲さん、どうしてここに?」
少し落ち着いたあたしの第一声。
「俺は、哲」
「て…つ?」
「そうだよ。もう“さん付け”禁止」
そう言うと、あたしの泣き腫れた目を
優しく手でなぞりながら
あたしの質問にゆっくり答えた。
「玄関でずっと待ってたんだ」
目の前の彼は優しい瞳を
あたしに向け、静かに微笑んだ。
「誰を…待ってたんですか?」
「紗月」
甘い声にあたしは少し反応した。
十夜以外の男に
【紗月】と呼ばれたのが
初めてのことだから。
「え、あたし?」
少し首を上下に動かし、
また優しい瞳で微笑んだ。
「哲さん…」
「名前!」
「て…つ。ありがと」
知らないうちに、
自分の顔が赤くなっていた。
「誰だよ、泣かしたやつ」
周りには誰もいない。
薄暗い空に、カラスが
夕方の時間を知らせていた。