君と、恋
「話なんて、ないでしょ?」
目を見て話せないあたし。
「ちょっとだけ」
上から降ってくるように、
聞こえてくる十夜の声が
すごく懐かしく聞こえる。
「用…早く言って」
人1人分の距離なんて、
前までは普通だったのに。
今のあたしはこれで精一杯だった。
「今度のゴールデンウィーク。行くんだろ」
「…つもりだけど」
十夜はドアを支えながら、
あたしの前を離れない。
「紗月」
突然、名前を呼ばれ
あたしは必要以上に驚いた。
「こっち向け」
どうしても従ってしまう、
十夜の言葉。
あたしはゆっくり顔を上げ、
十夜の顔を見た。
「ごめんな」
そう言った時の顔が、
どこが切なげだった。
「え…っ」
言葉の意味が理解出来ない。
何で謝るの?
何でそんな顔するの?
聞きたいことはたくさんあるのに。
口に出す事が怖かった。
「幸せになれ。」
そう言って、十夜はあたしの頭に
大きな手を乗せてくしゃくしゃにした。
「何、すんのよ」
心が、崩壊寸前だった。